上あご奥歯のインプラント手術が難しい理由
上あご奥歯の手術が難しい理由は、上あご奥歯部分の骨が薄いためです。
通常のインプラント手術では、歯を失った部分のあごの骨にドリルで穴を開けて、インプラント体(人工歯根)を埋入します。
しかし、上あご奥歯の部分には、上顎洞(サイナス)という空洞があるため、インプラント体を埋入できるほど骨の厚みがない場合がほとんどです。
また、上顎洞の内部はシュナイダー膜と呼ばれる粘膜で覆われており、この粘膜を傷つけると上顎洞炎という病気を起こしてしまう可能性があります。
そのため、上あご奥歯のインプラント治療は難しく、リスクが高いといわれています。
上あご奥歯の骨が薄くなってしまう原因
上あご奥歯の骨は、上顎洞があるためもとから薄くなっています。
くわえて、入れ歯や歯周病が原因でさらに骨が薄くなってしまうこともあります。
以下に、骨が薄くなってしまう主な原因を3つ紹介します。
原因①欠損歯を放置した
歯を支えている骨である歯槽骨は、筋肉と同じように適度な刺激を与えると、鍛えられて厚くなります。
健康な歯の場合は、噛むことで歯槽骨に適度な刺激が与えられて、骨が薄くなることはありません。
しかし、歯を失うと歯槽骨に刺激が与えられないため骨が薄くなり、骨吸収と呼ばれる骨が痩せる症状が現れます。
そのため、歯を失った部分を放置すると、骨吸収が進行して骨が薄くなるのです。
原因②歯周病によって骨が破壊された
歯周病にかかると、歯を失っていない場合でも骨吸収が起きます。
歯周病は、歯の周りに歯垢が溜まることで歯垢に含まれる細菌が、歯ぐきや歯槽骨にまで悪影響を与えて歯槽骨を減らす病気のことです。
歯周病を放置すると骨吸収が進行して、最悪の場合歯が抜け落ちてしまうため、注意が必要です。
原因③入れ歯によって骨が痩せた
歯槽骨には適度な刺激が必要ですが、過度な負荷は逆効果になる場合があります。
よくある例としては、噛み合わせのよくない入れ歯を使用しているケースです。
入れ歯が合っていないと、歯ぐきや歯槽骨に過度な負荷がかかってしまうため、骨が痩せてしまいます。
上あご奥歯のインプラント手術の方法
上あご奥歯の骨が薄い場合は、骨に合わせて短いインプラント体を埋入することも可能です。
しかし、インプラント体を短くすると人工歯(被せ物)を支えられなくなり、安定性が失われるためおすすめできません。
ここからは、インプラント体の長さを変えずにインプラント手術を行う方法を紹介します。
方法①傾斜埋入法
傾斜埋入法とは、上顎洞を避けつつ骨が残っている所に向けて、斜めにインプラントを埋入する方法です。
治療法としては、通常のインプラント手術と変わらないため、治療期間が短く患者様の負担が少ない点がメリットだといえるでしょう。
しかし、傾斜埋入法の手術は難易度が高いため、正確に施術ができる歯科医師の技術力が重要です。
方法②サイナスリフト
サイナスリフトは、インプラントを埋入したい部分の骨がほとんどない場合に、人工骨で骨を増やす方法です。
歯ぐきの側面を切開し、上顎洞内側のシュナイダー膜を慎重に剥がして人工骨を入れます。
上あご奥歯の広範囲にわたって骨をいれるため、複数本のインプラントを埋入したい場合に適しています。
デメリットとしては、歯ぐきの側面を大幅に切開するため傷口が大きくなり、回復に時間がかかる点が挙げられるでしょう。
また、痛みや腫れなどの症状が出る可能性が高いため、現在は部分的に人工骨を入れるソケットリフトのほうがサイナスリフトよりも多く使われています。
方法③ソケットリフト
ソケットリフトは、ある程度骨が残っている場合に、人工骨を埋入して骨を増やす方法です。
歯を失った部分から人工骨を入れて、上顎洞を持ち上げます。
部分的に骨を増やすため切開する範囲が小さくなり、傷口が回復しやすい点がメリットだといえるでしょう。
治療期間は3か月ほどで、体への負担も少ないため多くの歯科医院で行われています。
サイナスリフトのメリット・デメリット
外科手術による患者様への負担は、決して小さくないでしょう。しかし、人工骨の造成を行うことで、歯槽骨が著しく薄い状態であっても、インプラントを挿入できる程度に厚みを増やすことができます。どの方法を採用するかは、患者様の骨の状態を見ながら検討されます。
ここからは、サイナスリフトのメリット・デメリットについて、さらに詳しくみていきましょう。
【サイナスリフトのメリット】
- 上あごの骨が3mm以下になっているなど、かなり薄い場合にも適用可能
- 一度に広い範囲の骨を造成できるので、複数のインプラントを使った治療にも対応可能
- 長さのあるインプラントが使える
- 目視で手術を行うため、上顎洞粘膜を損傷するリスクが比較的低い
【サイナスリフトのデメリット】
- 外科手術の範囲が広いため、術後の痛みや腫れが強く出るなど、患者様への負担が大きい
- 骨の造成に3か月~半年ほど、結合して安定するにはさらに4か月ほどかかる
- トータルでのインプラント治療期間も長くなりやすい
- 骨の補填剤などを多く使うことから、コストがかかりやすい
ソケットリフトのメリット・デメリット
ソケットリフトは、歯根部の直下に人工骨を入れ、その部分にのみ骨を増やす方法です。抜歯の直後に施術することもあり、その場合は歯を抜いた穴から行われます。サイナスリフトに比べると、比較的簡単な手術ではありますが、適用できるケースは限られます。
また、サイナスリフトとは異なり、目視で確認しながら手術を行うことはできません。あらかじめ歯科用CTなどを使って、骨の高さや幅・質をしっかりと把握した上で行います。
ソケットリフトの主なメリット・デメリットは以下の通りです。
【ソケットリフトのメリット】
- 手術範囲が小さいため、痛みや出血のリスクが低く、患者様への負担が少ない
- 短時間で手術を行える
- 骨の移植とインプラント埋入を同時に行うため、治療期間を短縮できる
【ソケットリフトのデメリット】
- 上あごの骨が5mm未満など、かなり薄くなっている場合は適用できない
- 造成する骨の範囲が限られるため、インプラントを複数本埋入する場合は適用できない
- 小さな穴から手術を行うため、医師の技術によっては上顎洞粘膜を損傷するリスクがある
- 万が一粘膜を損傷してしまうと、炎症や感染症を引き起こす可能性がある
上あご奥歯のインプラント手術は可能
いかがでしたでしょうか。
上あごの奥歯部分には上顎洞があるため骨が薄く、インプラント手術の難易度が高いです。
また、上顎洞内部のシュナイダー膜を傷つけると、上顎洞炎という疾病を引き起こす可能性があるため、上あご奥歯のインプラント治療にはリスクがともないます。
手術には、人口骨を入れない傾斜埋入法や、人工骨を入れるサイナスリフトやソケットリフトという方法があります。
そのため、上あごの奥歯を失った場合は 骨吸収によって骨がさらに薄くなる前に、早めに歯科医院へ相談しましょう。
きぬた歯科では患者様の患部の状態に合わせて、適切な治療方法を提案しています。
インプラント治療にお困りの方は、ぜひ当院へご相談ください。
インプラントの費用について気になる方はぜひ、「インプラントの費用の基礎知識と1本あたりの費用について」をご覧ください。
この記事の監修者
日本歯科大学新潟生命歯学部を卒業後、インプラント治療に従事。現在では年間3000本以上のインプラント治療の実績がある。
日本でインプラント治療が黎明期だったころからパイオニアとして活躍し、インプラントメーカーのストローマン社やノーベルバイオケア社から公認インストラクターの資格を得た。
本の執筆やTV・雑誌などのメディア出演、自身のYouTubeチャンネルなどで情報発信を積極的に行っている。
<主な著書>
インプラント治療は史上最強のストローマンにしなさい!!
歯医者が受けたい!インプラント治療
あっそのインプラント、危険です!!
<YouTubeチャンネル>
八王子きぬた歯科
<外部サイト>
きぬた 泰和 Wikipedia