インプラント治療ができない歯茎や体の状態

インプラントは失った歯を補う治療法であり、あごの骨に穴を開けてそこにインプラントを埋入して人工歯を取り付けます。
外科手術を伴う治療法であることから、一般的な虫歯や歯周病などの治療と異なり、すべての人が選択できる治療法ではありません。

以下に該当する歯茎や体の状態の方は、インプラント治療ができないか、難しくなる可能性があります。

①歯肉が少ない

歯肉(歯茎)が少なかったり薄かったりする場合は、インプラント治療ができない可能性があります。これは、あごの骨に埋入したインプラントを安定させるためには十分な量の歯茎が必要だからです。

例えば、奥歯と比較すると前歯は歯茎が薄く、インプラント治療が難しくなってしまうケースもあります。目安としては、角化歯肉と呼ばれる硬い歯茎が2mm以上必要です。

もし、角化歯肉が不足している状況で無理にインプラント治療を行った場合、治療後に歯周病と似た症状が現れる「インプラント周囲炎」になってしまうリスクが高まります。
インプラント周囲炎は治療した周囲の状態を悪化させるので、場合によってはインプラントが抜け落ちてしまう可能性も高いです。

ただ、他の部分からの移植などにより歯茎を増やす治療を行うことでインプラント治療に対応できることもあります。

②あごの骨が薄い

歯茎と同様にあごの骨も埋入したインプラントをしっかり固定させるために重要です。
インプラントは、骨とインプラントが結合することによって安定するようになります。そのために必要なあごの骨が不足しているとインプラントがいつまでも安定しないことになってしまうので、場合によっては抜け落ちたり、破損したりする可能性も考えなければなりません。

特に奥歯はものを噛む重要な役割を持っており、強い咀嚼力が必要です。そのために厚いあごの骨が必要になります。

③虫歯や歯周病がある

虫歯や歯周病がある場合、基本的に先に治療してからでなければインプラント治療は行えません。
これは、虫歯や歯周病を残した状態でインプラント治療を行った場合、インプラント手術中に口腔内感染が発生するリスクがあるためです。

虫歯があっても少ない方や、歯周病があっても状態が落ち着いている方であればインプラント治療できるケースもあります。
ですが、万が一の細菌感染リスクを抑えるためにも並行して治療を検討していくとよいでしょう。

④糖尿病を患っている

インプラント治療ではメスを使って歯茎を切開してあごの骨にドリルで穴を開け、インプラントを埋入することになります。

歯茎や骨が傷ついた状態になるのですが、糖尿病を患っている方は傷が治りにくいため、インプラント治療が難しい可能性もあります。
これは、糖尿病だけではなく、他の全身疾患でも同様のことが言えるので、該当する方は慎重に検討しましょう。

全身疾患があったとしても体調管理に取り組み、状態が安定すればインプラント治療できることもあります。

⑤妊娠している

インプラント治療では外科手術を行うことになるので、麻酔や、手術後の痛み止めが必要です。
ですが、妊娠中の方は麻酔や痛み止めを使用するとお腹の赤ちゃんに影響が出てしまう可能性があります。

現在妊娠中の方は、出産後に改めて検討するとよいでしょう。

また、インプラント治療は数カ月にわたって行うものであり、人によっては治療が完了するまでに1年を超えることもあります。そのため、妊活中の方も治療開始時期に注意が必要です。

⑥喫煙習慣がある

タバコに含まれているニコチンは血管を収縮させる働きがあるので、術後の回復に悪影響を及ぼしてしまいます。
傷口が治りにくくなると、あごの骨に埋入したインプラントと骨がしっかり結合できません。

さらに喫煙習慣がある方は歯周病リスクが高いため、インプラント治療後も十分注意が必要です。こういった影響のことを考えると、インプラント治療をする方は治療終了後も含めて禁煙に取り組んだ方がよいでしょう。

⑦血液透析を受けている

人疾患を抱えていて血液透析を受けている方は、インプラントの手術によって細菌が臓器に回ってしまう可能性があります。そのため、インプラント治療は適していません。

また、人工透析を受けていなくても腎疾患を抱えている方は免疫力が低下しています。傷の回復に時間がかかるだけではなく、細菌感染リスクも考えられるので、その他の治療法を検討するとよいでしょう。

⑧未成年者である

未成年のうちはまだ顎の骨が成長段階である可能性が考えられます。この段階でインプラント治療を行うと治療後にあごの成長によって歯列が動いてしまう可能性があるため、基本的に未成年者はインプラント治療ができません。
クリニックによっては18歳未満、または20歳未満の治療を受け付けていないところもあります。

インプラント治療に向いていない人の特徴

体の状態に問題がなかったとしても、インプラント治療に向いていない人もいます。以下の3つに該当する方は治療が難しい可能性を考えておきましょう。

歯並びが悪い

歯並びが悪い方は、インプラント治療に向いていません。これは、歯並びが悪いために適切な位置にインプラントの埋入が難しいからです。
また、歯並びの悪さによる噛み合わせの問題が起こることもあります。

それから、歯並びが悪いと歯ブラシが届きにくい部分があるため、磨き残しが発生しやすくなります。
その結果、口腔内が不衛生な状態になり、インプラント周囲炎などのリスクが高まるのも向いていない理由です。

メンテナンスに通えない

インプラントは治療終了後も定期的にクリニックに通い、メンテナンスを受ける必要があります。
日々のセルフケアだけでは落としきれない汚れがあるため、それらを専門的な器具で取り除かなければなりません。

また、インプラント周囲炎は初期症状がほぼないので、いち早く気づくためにも定期的にクリニックで診察を受けることが重要です。
そのため、メンテナンスに通えない方には向いていません。

麻酔を使用したくない

どうしても麻酔をしたくない理由がある場合、インプラント治療はできません。
外科手術を伴う治療なので、麻酔なしでは痛みに耐えきれないからです。
その他の治療法を検討するとよいでしょう。

インプラント治療ができない人の対処法

インプラント治療ができない場合、治療ができるように状態を整えるか、その他の方法で対応していくことになります。
ここでは、代表的な対処法を紹介します。

ソケットリフト

ソケットリフトとは、上あごの奥歯部分の骨が足りない場合に行われる骨造成法です。
対象となるのは軽度の骨不足のみですが、インプラントを埋入する部分に骨の代わりとなる素材を流し込む部分的な治療であり、体への負担を抑えられます。

また、同時にインプラントの埋め込みもできるため、治療期間が短く済むのも特徴です。

サイナスリフト

上あごの骨が非常に薄く大量に骨を増やす必要がある場合は、サイナスリフトと呼ばれる治療を行うことがあります。骨の代わりとなる素材を流し込む治療法です。

ソケットリフトと比べると治療の難易度が高いことや、サイナスリフトの治療だけで半年程度かかるといった注意点があります。
ですが、広範囲にわたって骨を増やすことができるので、複数本インプラントを埋入したいといった場合も対応可能です。

GBR

GBRは骨組織誘導再生法と呼ばれる方法であり、骨を作る骨芽細胞という細胞の増殖を促します。
骨を増やしたい部分に人工の骨補填材や患者の自家骨を採取して移植する治療法です。
半年前後の期間がかかりますが、さまざまな箇所に対応できます。

また、ある程度骨の厚みがある場合はインプラントの埋入治療を同時に行えることがあり、その場合は治療期間を短くすることが可能です。

ブリッジ

あごの骨を増やしてもインプラント治療が難しい場合は、ブリッジを検討してみるとよいでしょう。
ブリッジは、失った歯の両隣の歯を削って調整し、そこを支えとして連結した被せ物を装着する治療法です。

例えば、失った1本の歯をブリッジで補う場合、3本連結した被せ物を装着し、支えとなっている2本の歯で噛み合わせの負荷を分散します。
見た目が自然であること、違和感が出にくいことなどが特徴です。
保険が適用されるものを選べば、治療費を安く抑えることができます。

ただ、対応できるのは1~2本の欠損であり、それよりも連続して歯が抜けている場合は選択できません。

また、土台となる歯は健康であっても削らなければならないのがデメリットです。
削られた歯は弱くなってしまうことに加え、これまで3本の歯で受けていた負担を2本に分散することになるので、土台となる歯の負担が大きくなります。
結果として土台となる歯の寿命を縮めてしまうケースも多いです。

差し歯

差し歯は歯根が残っている歯に対して被せ物をする治療法です。
そもそもインプラントは歯根を残せない場合に適用される治療法なので、基本的に差し歯は代替案にはなりません。

ただ、現在歯が残っていて抜歯を提案されたものの、他の歯科医院で診てもらったところ差し歯で対応できることがわかるケースもあります。
同じような状況にある方は、一度セカンドオピニオンを検討してみるのもよいでしょう。

部分入れ歯

残っている歯に固定用の金具を引っかけて入れ歯を固定する方法です。
保険診療も可能なので費用を抑えられるのはメリットですが、違和感があったり、固定用の金具が邪魔をして磨き残しが発生しやすくなったりする方もいます。

また、インプラントや自分の歯と比較すると噛む力も弱まってしまうのがデメリットです。

一方、自費診療で作る部分入れ歯は審美性や性能面において優れています。
そのため、インプラントを検討できず部分入れ歯で対応しようと考えている方は、自費診療のものも検討してみるとよいでしょう。

歯茎の状態を整えればインプラント治療できることも多い

いかがだったでしょうか。
どのような歯茎状態だとインプラント治療ができないのか、どういった対処法があるのかなどを紹介しました。

治療によって歯茎や口の中の状態を整えればインプラント治療できるケースもあります。

もし他院でインプラント治療が難しいと断られてしまった場合は、インプラントの『きぬた歯科』までご相談ください。
これまでに多くの治療実績があり、難症例にも対応してきました。
インプラント治療が難しい場合はその他治療の提案も可能です。

この記事の監修者

日本歯科大学新潟生命歯学部を卒業後、インプラント治療に従事。現在では年間3000本以上のインプラント治療の実績がある。

日本でインプラント治療が黎明期だったころからパイオニアとして活躍し、インプラントメーカーのストローマン社やノーベルバイオケア社から公認インストラクターの資格を得た。

本の執筆やTV・雑誌などのメディア出演、自身のYouTubeチャンネルなどで情報発信を積極的に行っている。

<主な著書>
インプラント治療は史上最強のストローマンにしなさい!!
歯医者が受けたい!インプラント治療
あっそのインプラント、危険です!!

<YouTubeチャンネル>
八王子きぬた歯科

<外部サイト>
きぬた 泰和 Wikipedia