インプラント治療は、歯と歯根を失った方が、見た目や機能を天然歯に近い状態で回復できる治療です。
しかし、手術が必要であることから、痛みや腫れを心配される方も少なくありません。
実際には、歯科医療技術や麻酔の進歩により、手術中に強い痛みを感じるケースは極めてまれです。

ここでは、治療中や治療後に感じやすい痛みの内容と、安心して手術を受けるための工夫を解説します。
インプラント治療の痛みについて不安がある方や、これから治療を受ける予定がある方は、ぜひ参考にしてください。

インプラント治療中はほとんど痛みを感じない

インプラント治療は、歯根があった部分に人工歯根を埋め込み、その上に人工歯を乗せる治療です。

歯ぐきを切る、骨に穴を開けるといった治療内容から痛みを心配される方もいますが、十分な麻酔を行うため、痛みが原因で治療に支障をきたすことはほとんどありません。

手術前に痛みへの耐性を確認し、表面麻酔や局所麻酔を行います。
恐怖心が強い方には別途「静脈内鎮静法」と呼ばれる麻酔を併用することもあります。

局所麻酔のみでも痛みを抑えられますが、静脈内鎮静法を併用すると、さらに痛みを感じにくい状態で治療を終えられます。
手術後は徐々に麻酔の効果が切れてくるため、その際に軽い痛みや腫れを感じることはありますが、鎮痛剤を服用すればすぐに落ち着いていきます。

医師の丁寧な麻酔と技術によって身体的・心理的な負担を軽減でき、「思っていたより楽だった」と感じる方も多い治療となっています。

インプラント治療で痛みを感じるタイミング

インプラント治療で痛みを感じるタイミングは、「麻酔のための注射」「術後(数時間後)」「抜糸」の3つです。

どのような瞬間に痛みを感じるのか、痛みの経過や対応方法とともに紹介します。

注射

インプラント治療では、麻酔注射の際にチクッとした痛みを感じることがあります。
ただし、事前に表面麻酔を行ってから局所麻酔を行うため、実際に感じる痛みはごく軽度です。

麻酔注射では、針を刺す瞬間に軽い痛みを感じますが、表面麻酔を塗ることで針の痛みを抑えられます。
薬剤を注入した後はすぐに効き始めるため、表面麻酔と局所麻酔の併用で痛みを大きく軽減させられます。

緊張や恐怖心が強いと痛みを感じやすくなるため、落ち着いた状態で受けることを意識しましょう。
歯科医師に不安を伝えることで、より丁寧な対応が受けられる場合もあります。

術後

手術中〜手術後は麻酔がしっかりと効いており、痛みを感じることはありません。
もちろん、痛みや違和感があればすぐに追加の対応を受けることができます。

手術直後は麻酔が効いているため痛みはほとんどありませんが、麻酔が切れる数時間後から鈍い痛みや腫れを感じることがあります。
これは骨や歯ぐきへの外科的処置によるもので、2〜3日ほどで落ち着くケースが多くみられます。

術後の痛みについては、鎮痛剤を服用すれば日常生活に支障をきたすことはほとんどありません。
それでも過度な腫れや強い痛みが続く場合は、傷口からの感染など手術以外の原因も考えられるため、早めに歯科医院へ相談してください。

抜糸

手術で縫合した箇所は、後日抜糸を行います。
一時的に刺激を感じることがありますが、短時間かつほとんどの人が痛みを強く感じません。

抜糸後は歯ぐきがやや敏感になっているため、当日は強いうがいや硬い食べ物を避けると良いでしょう。
傷口の治りを促進するためにも、清潔な口腔環境を保ち、指や舌で触れないよう注意することが大切です。

手術の痛みを和らげる麻酔法

手術時の痛みを和らげる麻酔法として「局所麻酔法」「静脈内鎮静法」を紹介します。

局所麻酔法

局所麻酔法は、治療を行う部分にだけ麻酔をかける方法です。
歯ぐきとその周囲にある神経を一時的に麻痺させることで、手術中の痛みを感じなくさせるものです。

麻酔が効いていても意識ははっきりしており、痛みを感じずに歯科医師や看護師と会話を交わすことが可能です。
麻酔の効果は1~2時間ほど持続し、その後少しずつ感覚が戻ります。

歯科用の局所麻酔は副作用が少なく、安全性も高いため、一般的なインプラント治療で採用されている方法です。
不安や緊張が強い方には、静脈内鎮静法と併用することもできます。

静脈内鎮静法

静脈内鎮静法は、点滴で鎮静剤を投与し、うたた寝しているような穏やかな状態で治療を受ける方法です。

全身麻酔と異なり、呼吸や意識を保ったまま痛みや恐怖心を抑えられるのが特徴で、緊張しやすい方や長時間の手術が不安な方に適しています。

静脈内鎮静法を受けたあとはしばらく安静に過ごし、完全に覚醒してから帰宅しなければなりません。専門的な管理が必要なため、設備が整った歯科医院で行われます。

術後の痛みはどれくらい続く?

インプラント治療の術後の痛みは、手術翌日から2~3日程度をピークに、少しずつ軽減していくのが一般的です。
ほとんどの方は1週間ほどで痛みが軽くなり、日常生活に支障が出ることはほとんどありません。

痛みの程度には個人差があり、手術の内容や体質、骨や歯ぐきの状態などによって変わります。
インプラント1本のみの埋入であれば軽い鈍痛程度が多くみられますが、2本以上や骨造成を併用する大掛かりな手術では、腫れや痛みが長引くことがあります。

術後に痛みを少しでも感じないためには、処方された鎮痛剤を正しく服用することが大切です。
患部を清潔に保ち、冷却や安静を心がけることで、炎症を抑えて回復を促すことができます。

痛みが1週間以上強く続いている、腫れや出血、熱感があり違和感が強い場合は、感染症やインプラント周囲炎の兆候が疑われるため、早めに歯科医院へ相談してください。

正しいアフターケアを行えば、術後の痛みは時間の経過とともに確実に和らいでいきます。焦らず安静を保ち、医師の指示を守ることが、インプラントを長持ちさせるための重要な要素といえます。

術後の痛みを和らげる方法

術後の痛みは鎮痛剤以外にもいくつかの方法を意識することで和らげられます。

どのような方法があるのか、詳しくみていきましょう。

飲酒・喫煙を控える

飲酒や喫煙は血流に影響を与え、傷口の治りが遅れる原因になるため手術後は控えるようにしてください。

アルコールには血流を促進する作用があり、術後の痛みが強く出るおそれがあります。
喫煙は歯ぐきの血管を収縮させ、血流を低下させるため、骨とインプラントの結合を遅らせたり、インプラントの定着を妨げたりする可能性があります。
喫煙者の方は、手術から1週間程度は治癒のために喫煙を控えることが理想的です。

タバコに含まれるニコチンは免疫力を低下させ、感染のリスクを高める可能性があります。
禁酒や禁煙を心がけることで回復が早まり、インプラントの長期的な安定にもつながります。

硬い物や熱い物を食べるのは控える

手術直後は歯ぐきがデリケートになっているため、硬い食べ物や熱い料理は避けてください。
食べ物や飲み物から刺激が伝わると、出血や痛みの悪化を引き起こすおそれがあります。

術後すぐから1週間ほどは、熱すぎず冷たすぎない温度で、柔らかめの食材を使った食事が望ましいでしょう。

食事の際は治療した箇所とは反対側の歯で噛むように意識し、傷口に食べ物が当たらないよう注意しましょう。

歯磨きの際は患部に当たらないようにする

術後は患部を清潔に保つ必要がありますが、すぐにブラッシングをすると傷口が開きやすくなるため注意が必要です。

患部へのブラッシングは避けて、それ以外の歯を慎重にやさしく清掃し、殺菌効果のあるうがい薬を併用しましょう。

歯ブラシは毛先が柔らかいタイプを使用し、傷口が完全に塞がるまでは刺激を与えないようにしてください。
1週間程度が経過してから、歯科医師の指示に従って徐々に通常のブラッシングへ戻します。

術後2~3日は入浴を控える

入浴で身体を温めすぎると血流が促進され、出血や腫れの悪化といったリスクが伴います。

洗髪などはシャワーで済ませて、熱いお湯に長時間浸かることは控えてください。
手術当日は傷口が安定していないため、ぬるめの温度で短時間の入浴であれば安心です。

体を清潔に保ちつつも、体温の急上昇を防ぐことで、腫れや痛みの増悪を防げます。

運動は数日間控える

激しい運動も、血圧の上昇によって出血や腫れを引き起こすことがあります。
手術後2~3日は、身体を激しく動かすような活動は控えて安静に過ごし、体調が落ち着いてから徐々に元のペースに戻してください。

ウォーキングなどの軽い運動も、術後は体調を優先して控えましょう。
汗をかく活動は、安静期間を過ぎてから行うことをおすすめします。

処方された薬は飲み切る

抗生物質や鎮痛剤は、医師の指示にしたがって服用し、すべて飲み切るようにしてください。
途中で服薬を止めると、痛みが軽減されにくくなったり、感染のリスクが高まったりするおそれがあります。

「痛みが軽くなった」と思っても、実際の傷口の状態はまだ安定しておらず、安静と服薬が必要であるケースも少なくありません。
薬を正しく飲み切ることで、炎症の再発や腫れの長期化を防ぐことができます。

患部を冷やす

痛みや腫れが出た場合は、冷たいタオルなどで患部を軽く冷やすと炎症を抑えられます。
ただし、長時間当てすぎると逆効果になるため、10分程度を目安にしましょう。

冷やすときは氷を直接肌に当てないようにして、タオルで包んでから当てると安全です。

患部が落ち着いたあとは、過度な冷却を避け、自然な回復を妨げないよう注意しましょう。
身体がもつ自然な回復力を妨げないように、バランスをとりながら冷却を行ってください。

歯科医院に相談する

痛みや腫れが長引いたり、強い違和感を感じる場合は自己判断せず、早めに歯科医院へ相談してください。

発熱や膿が出るといった症状は放置せず、すぐにかかりつけの歯科医院を受診してください。
症状を放置するとインプラントの固定に影響するおそれもあるため、早期の対応でトラブルを予防しましょう。

インプラント治療後に痛みを感じるケース

インプラント治療後に痛みを感じるケースとして、インプラント周囲炎やかみ合わせのずれが挙げられます。

ここでは、それぞれのケースについて詳しく紹介します。

インプラント周囲炎

インプラント周囲炎は、インプラントの周囲に細菌が繁殖して歯ぐきの溝に入り込み、炎症を起こす病気です。
歯ぐきの腫れや出血、ズキズキとした痛みが現れ、放置すると骨が溶けてインプラントが脱落することもあります。

毎日のブラッシングと、歯科医院での定期的なメンテナンスで予防することが大切です。

かみ合わせのずれ

インプラントで再建した歯とかみ合わせがずれている場合、噛むたびに力が加わって痛みや違和感を生じる可能性があります。

この場合はかみ合わせの調整で改善する可能性があるため、痛みを感じたときは早めに歯科医院へ相談してください。

インプラント治療の痛みは信頼できる歯科へ相談

この記事では、インプラント治療で発生する痛みの種類やタイミング、痛みを和らげる方法について紹介しました。

インプラント治療は手術を伴いますが、歯科医療技術の進歩や丁寧な麻酔によって、手術中の痛みはほとんど感じないことが多いため、実際に感じる痛みはごく軽度なものです。
術後の痛みも鎮痛剤の服用や適切なアフターケアで軽減できるため、日常生活に支障をきたすことはほとんどありません。

治療や痛みに不安がある場合は、信頼できる歯科医師に相談し、ケア体制の整った歯科医院でインプラント治療を受けることが推奨されます。

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この記事の監修者

日本歯科大学新潟生命歯学部を卒業後、インプラント治療に従事。現在では「インプラント治療のきぬた歯科」を開業し年間3000本以上のインプラント治療の実績がある。

日本でインプラント治療が黎明期だったころからパイオニアとして活躍し、インプラントメーカーのストローマン社やノーベルバイオケア社から公認インストラクターの資格を得た。

本の執筆やTV・雑誌などのメディア出演、自身のYouTubeチャンネルなどで情報発信を積極的に行っている。

<主な著書>
インプラント治療は史上最強のストローマンにしなさい!!
歯医者が受けたい!インプラント治療
あっそのインプラント、危険です!!

<YouTubeチャンネル>
八王子きぬた歯科

<外部サイト>
きぬた 泰和 Wikipedia