インプラント治療とは?

インプラント治療とは、永久歯を失ったあごの骨にインプラント体を埋め、その上から人工歯を取り付ける治療方法です。
治療は失った歯の本数にかかわらず、幅広く適用でき、歯の機能や見た目を回復することができます。
しかし、保険適用の入れ歯やブリッジなどの治療に比べて、自費診療であるインプラント治療は費用が高額になります。

自分自身で納得して決めることはもちろん、信頼できるクリニックを選ぶことも重要です。

インプラント治療の概要については「インプラントとは?メリット・デメリットや他の治療との違い」をご覧ください。

インプラント治療は高齢者でも受けられるのか?

結論から申し上げますと、健康状態に問題がなければ、インプラント治療は高齢者でも受けることができます。
年齢の上限は、現状定められていませんが高齢者が、治療を受ける際はさまざまなリスクをともなうので注意が必要です。

ここからは、高齢者が受けるインプラント治療の具体例や、それにともなうリスクも解説していきます。

高齢者向けのインプラント治療とは?

高齢者向けのインプラント治療には「オーバーデンチャー」と「オールオン4」という方法があります。

オーバーデンチャーとは、口腔内に残った歯やインプラントの上から、入れ歯を固定する治療法です。
インプラントの総入れ歯のようなイメージで、いくつかの固定方法があります。
粘膜で支える一般的な入れ歯よりも安定性が高く、噛む力も向上するのが大きな特徴です。

また、患者さま自身で簡単に取り外すことができるので、お手入れも簡単で清潔な状態を保ちやすく、後述のオールオン4よりも費用が抑えられるというメリットもあります。
しかし、噛む力が強固になったがゆえに、入れ歯が割れやすい点がデメリットです。
その結果、メンテナンスの必要回数が多くなり、最終的に費用がかさむこともあるので、注意したいところです。

オールオン4 は、インプラントの上から入れ歯を固定する点では、オーバーデンチャーと同じ仕組みです。
総入れ歯のように、12本が一体となった義歯を、あごの骨に埋入した4~6本のインプラント体で固定するので、天然歯に近い噛み心地を実感することができます。

また、即日で仮義歯が入れられるので、その日のうちに噛めるようになり、患者さまの負担が少ないのも特徴です。
ただし、片顎すべての歯を失った場合のみ適応となるため、歯が1本でも残っている状態で、オールオン4を利用したい方は抜歯が必要です。
さらに、医師の高い技術や経験も必要不可欠で、治療費も高額になります。

以上のことから、オーバーデンチャーとオールオン4の特徴を押さえて、ご自身にあった治療法を選択しましょう。

オールオン4の概要については「インプラント治療の「オールオン4」とはなんですか?」をご覧ください。

インプラント手術を受けるにあたり満たしていなければならない条件

インプラント治療は外科手術を要するので、身体的負担が大きくかかります。
そのため、高齢の方は下記条件をクリアしていなければ、治療を受けられない可能性があります。
治療前に、以下で紹介する条件を必ず確認しましょう。

条件①持病がない

インプラント治療を行う大前提の条件として、持病がないことが挙げられます。
もし持病がある場合は、インプラント治療には慎重になるべきです。
特に生活習慣病である高血圧、糖尿病は注意が必要です。

高血圧で、動脈硬化が進行していると、手術中のストレスによって血圧が急激に上昇し、脳出血や脳梗塞、心筋梗塞が発生するリスクをともないます。
糖尿病は、機能不全により必要な栄養や酸素が巡らなくなるため、手術によってできた傷が治りにくく、治療期間が長引く場合がある病気です。

このように、持病があることで、場合によっては手術中にほかの病気を引き起こしたり、インプラントが定着するまでに時間を要したりします。
これらのことを踏まえ、上記のような持病がある方は、インプラント治療を検討する段階でかかりつけ医に相談しましょう。

条件②口内環境に問題がない

インプラント治療は、治療後の日々のケアや定期的なメンテナンスを怠ると「インプラント周囲炎」を引き起こすリスクが高まります。
インプラント周囲炎とは、歯周病によく似た病気で進行度も早く、インプラントの脱落など深刻な症状を引き起こします。

そのため、インプラント治療前の口内環境はもちろんですが、治療後も日頃からセルフケアを欠かさず行い、3か月に1度の定期健診で口腔内を常に清潔に保ちましょう。

条件③服薬していないこと

普段処方されている薬の種類によっては、インプラント治療が受けられないこともあります。

たとえば、骨粗しょう症の治療で使用されるビスホスホネート製剤 には、骨の代謝を抑えてカルシウムの流出を阻止し、骨を固くする作用があります。
つまり、新しい骨や歯周組織を作る機能も抑制されてしまうのです。
ビスホスホネート製剤を服用している方が、インプラント治療後にあごの骨が細菌感染した場合、骨の壊死はじめとする深刻な合併症を引き起こすケースもあるため、治療ができません。

また、心筋梗塞や脳梗塞を予防するために使用される抗血小板薬や抗凝固薬には 、血栓を予防して、血管内の血液をサラサラにする作用があります。
以前は、インプラント治療を受ける際に、出血が多くなるため、一時的に服薬を中断することが一般的でした。
しかし最近では、出血のリスクよりも、脳梗塞をはじめとした血栓塞栓症を誘発するリスクのほうが高まるということで、服薬の一時中断は行わない方針です。
一度発症した血栓の病気は、重篤になり命に関わるため、自己判断による薬の中止はしてはなりません。

そのため、担当の歯科医師から全身の状態や服薬状況について聞かれた際は、正確に答えることが重要です。

参照元:J-Stage 臨床研究「抗血栓療法中の患者に対するインプラント埋入手術の臨床的検討」

条件④手術に耐えうる体力があること

インプラント治療は外科手術が必要になるので、ある程度の体力も必要です。
外科手術では、歯茎を切り開き、あごの骨に穴を開けてインプラントを埋め込むため、高齢の方には身体的負担が大きいといえます。
体への負担は一般的な抜歯と同程度ですが、高齢の方ですと持病や服薬の問題も多くなり、手術が難しくなることがあります。

高齢者がインプラント治療を受けるメリット

高齢の方がインプラント治療を受けるためには、いくつかの条件や制約があります。
しかし、それ以上に高齢者のインプラント治療は、見た目や口腔機能が改善され健康の維持につながるメリットを含んでいます。
インプラントを埋入すれば、気兼ねなく会話を楽しめるので、自分に自信を持つことができるでしょう。
生活の質そのものが上がることによって、健康面と心理面で良い影響を及ぼします。

そこでここからは、インプラント治療後の具体的なメリットについて解説します。

メリット①しっかりと噛める

インプラントは、あごの骨に人工の歯根を埋入して固定するため、天然の歯のようにしっかりと噛むことができます。
高齢の方のように噛む力が落ちると、しっかりと消化できず、十分な栄養が摂れなくなるだけでなく、食べることそのものも楽しめなくなってしまいます。
また、全身の機能を維持するためにも、歯が生えていることは重要なので、歯が抜けてしまったあとに、インプラント治療によって噛む力を改善させることには意味があるのです。

メリット②認知症リスクの低下にもつながる

よく噛んで食べることは、刺激が脳に伝わり認知症のリスクの低下にもつながるといわれています。

今や認知症は、誰にでも起こりうる病気の一つです。
2025年には、一般的な高齢者と定義される65歳以上の5人に1人が認知症になるといわれており、さらに身近なものになってきています。
このように噛む力を維持するだけでなく、認知症のリスク軽減を目的にインプラント治療を考える人も少なくありません。

参照元:厚生労働省「【テーマ5】認知症」

メリット③外見を若々しく保てる

歯は見た目の若さを大きく左右します。

歯が上下しっかり並んでいることは、口元が自然に見え若々しい印象を与えます。
また、インプラントは金具や樹脂素材が正面から見えないため、入れ歯やブリッジなどに比べて見た目の違和感が少ないです。
口元から美しい見た目を維持したい人には、インプラント治療が向いています。

高齢者がインプラント治療を受けるにあたり覚えておきたいこと

もちろん、高齢者のインプラント治療で得られるのは、メリットだけではありません。

注意しなければならないこともいくつかあるので、下記で紹介する起こり得るリスクも念頭に置いておきましょう。

デメリット①細菌感染を起こしやすい

繰り返しにはなりますが、インプラント治療には外科手術が欠かせません。
免疫力の低下した高齢者は、傷口から細菌が侵入した際の感染リスクが高くなるため、日々のケアを怠らないことが大切です。
さらに、専用の手術室を完備している点や、治療で使用する器具の滅菌消毒をしているかどうかなど、徹底的な衛生管理で信頼できるクリニックを選び、感染リスクを軽減しましょう。

また、高齢になると体力の低下などを理由に、治療後の通院や手先を動かすこと自体が難しくなるため、お口の中のメンテナンスがおろそかになる場合があります。
そのため、通院が困難になったときに、訪問診療などの柔軟な対策を考えてくれるクリニックを将来的に探しておくのもなお、よいかもしれません。

デメリット②インプラント体と骨が結合しづらい

インプラントは、時間の経過とともにあごの骨と結合するため、固定までに時間がかかります。
高齢者は免疫力の低下から傷口の治りが遅く、若い方よりもインプラントと周りの組織が結合しづらい傾向にあります。
万が一結合できなかった場合、再手術の必要があることも念頭に置いておきましょう。

インプラントとは

高齢者のインプラント治療にはメリットとデメリットがあり、理解したうえで選択することが大切

いかがでしたでしょうか。

インプラント治療は、失った歯を取り戻す画期的な方法で、高齢者でも条件をクリアしていれば利用することができます。
さらに心身ともに健康が見込まれ、老後の生活も満足のいくものになるでしょう。
しかし、外科手術が必要なので、ご自身の体力やリスクを考慮して治療を検討しなければなりません。

きぬた歯科では、年間3,000本ものインプラント治療実績があり、経験豊富な医師が在籍しております。
高齢の方が治療を受ける際も、必ず丁寧なカウンセリングと精密検査を行い、治療にあたってのメリットやデメリット、費用などをすべてご説明いたします。

インプラント治療をお考えの方はぜひ一度、当院へご相談ください。

この記事の監修者

日本歯科大学新潟生命歯学部を卒業後、インプラント治療に従事。現在では年間3000本以上のインプラント治療の実績がある。

日本でインプラント治療が黎明期だったころからパイオニアとして活躍し、インプラントメーカーのストローマン社やノーベルバイオケア社から公認インストラクターの資格を得た。

本の執筆やTV・雑誌などのメディア出演、自身のYouTubeチャンネルなどで情報発信を積極的に行っている。

<主な著書>
インプラント治療は史上最強のストローマンにしなさい!!
歯医者が受けたい!インプラント治療
あっそのインプラント、危険です!!

<YouTubeチャンネル>
八王子きぬた歯科

<外部サイト>
きぬた 泰和 Wikipedia