歯を失った際に「インプラント治療を検討しているけれど、保険は使えるの?」と疑問に思う方は多いのではないでしょうか。
インプラントは基本的に自由診療ですが、例外的に保険が適用されるケースもあります。
本記事では、インプラント治療における保険の適用条件や費用の目安、医療費控除の仕組みなどを分かりやすく解説します。
費用面に不安を感じている方は、ぜひ参考にしてみてください。
保険診療とは
保険診療とは、国が定めた基準に基づき、すべての国民が公平に医療を受けられるよう設けられた制度です。
治療費の一部を患者が負担し、残りを公的医療保険が支払う仕組みのため、経済的負担を抑えつつ必要な治療を受けることができます。
歯科の分野では、虫歯や歯周病の治療、入れ歯やブリッジといった一般的な補綴治療が保険診療の対象です。
ただし、使用できる材料や治療法には制限があり、より高度な技術や審美性を求める場合は、保険の対象外(自由診療)となります。
インプラント治療は保険適用外
インプラント治療は、一般的に保険診療の対象外とされています。
虫歯や歯周病の治療とは異なり、人工歯根を顎の骨に埋め込む高度な外科的処置を伴うため、自由診療として扱われるのが原則です。
そのため、治療費は全額自己負担となり、医療機関ごとに費用や使用素材、技術水準が異なります。
インプラントは審美性や機能性の向上など、多くのメリットがありますが、保険診療が想定する「最低限の機能回復」を超える治療と判断されるため、保険適用外とされています。
インプラント治療でも保険が適用されるケース
インプラント治療は原則として自費診療ですが、特定の医学的理由がある場合は保険が適用されることがあります。
通常の虫歯治療や加齢による歯の欠損ではなく、生まれつきの疾患や事故・病気による重大な損傷など、特別な事情がある場合に限られます。
ここでは、先天的なケースと後天的なケースに分けて、保険が認められる代表的な例を見ていきましょう。
先天的なケース
生まれつき顎や歯に異常がある場合には、インプラント治療が保険の対象となることもあります。
通常の入れ歯やブリッジでは十分な機能回復が見込めないと判断された場合に限られます。
- 生まれつき顎の骨が十分に形成されておらず、顎骨の1/3以上が欠損している場合
- 先天的に6歯以上の永久歯が欠損している場合
- 顎骨形成不全や顔面奇形症など、咀嚼機能や発音に影響を及ぼす先天的疾患がある場合
このようなケースでは、成長過程や噛み合わせの状態を考慮したうえで、医師がインプラント治療の必要性を認めた場合のみ保険診療の対象になります。
生まれつきの疾患を抱える患者の生活の質を向上させるために、例外的に保険が認められる仕組みです。
後天的なケース
事故や病気など、後天的な理由で顎骨や歯を失った場合も、一定の条件を満たすことでインプラント治療が保険の対象になる場合があります。
一般的な補綴治療(入れ歯やブリッジ)では十分な機能回復が見込めない場合が対象です。
- 交通事故や転倒などの外傷により、顎の骨を1/3以上失った場合
- 腫瘍の切除や顎骨骨髄炎などの病気により、顎骨が欠損している場合
- 複数の前歯が生えてこない「永久歯萌出不全」で、外科的な処置が必要な場合
- 矯正治療後を含め、1/3以上の範囲で多数歯が連続して欠損している場合
このような後天的なケースでは、日常生活に支障をきたすほどの損傷がある場合、医師が機能回復を目的にインプラント治療を提案することがあります。
保険の適用可否は、歯科医の診断内容と厚生労働省の基準を満たしているかどうかによって決まります。
保険が適用される歯科医院の条件
保険診療としてインプラント治療を受けるには、治療を行う医療機関にも、厳格な条件が設けられています。
一般的な歯科医院ではなく、厚生労働省が定めた設備・人員・安全管理体制を備えた医療機関でのみ、保険が適用されます。
- 20床以上の入院用ベッドを備えていること
- 常勤の歯科医師が2名以上在籍し、うち1名以上がインプラント治療3年以上または歯科・口腔外科で5年以上の臨床経験を有すること
- 当直医が常駐しており、緊急時にも対応できる体制が整っていること
- 医薬品や医療機器の安全管理体制が確立されていること
- 歯科または歯科口腔外科を標榜している病院であること
これらの条件を満たす医療機関は限られており、実際には大学病院や総合病院といった大規模な施設で実施されることが一般的です。
保険でインプラント治療を受けたい場合は、まずは対応可能な医療機関を確認し、紹介や相談を通じて適切な治療方針を検討しましょう。
インプラント治療の費用の目安
インプラント治療の費用は、保険の適用有無によって大きく変わります。
一般的には自由診療に分類されるため高額な治療費がかかりますが、特定の医学的条件を満たす場合は保険が適用され、自己負担額を大きく抑えられます。
ここでは、保険の有無による費用の違いや、確認しておきたいポイントを紹介します。
関連記事:インプラントの費用の基礎知識と1本あたりの費用について
保険が適用されている場合
インプラント治療が保険適用となるのは、先天的な顎骨の形成不全や、事故・腫瘍などで顎骨が大きく欠損しているケースに限られます。
このような症例では、機能回復を目的とした医療行為として認められるため、保険が適用されます。
治療費は数万円から十数万円程度が相場で、3割負担などの自己負担割合が適用されるため、経済的負担を大幅に軽減できます。
ただし、保険適用を受けるには、厚生労働省の基準を満たした医療機関での治療が必要です。
保険が適用されていない場合
保険が適用されない一般的なインプラント治療は、すべて自由診療となり、治療費は全額自己負担です。
費用は歯科医院や使用素材、技術レベルによって異なりますが、1本あたり30万〜50万円程度が目安となります。
上部構造にセラミックを使用したり、骨造成などの追加処置が必要になったりする場合は、さらに高額になることもあります。
また、複数本のインプラントを埋め込む場合は、1本ごとの費用が積み重なるため、総額が100万円を超えるケースも少なくありません。
治療内容や審美性を重視するほど費用は上がりますが、長期的な耐久性や自然な見た目を求める方にとっては大きな利点といえます。
インプラント治療は医療費控除の対象
インプラント治療は保険適用外の自由診療ですが、医療費控除の対象に含まれます。
医療費控除とは、1年間に支払った医療費のうち一定額を超えた部分について、所得から控除を受けられる制度です。
その場で治療費が安くなるわけではなく、翌年の確定申告によって税金の一部が還付される仕組みです。
インプラント治療は1本あたり30〜50万円ほどかかるため、多くの場合で医療費控除の条件である「年間10万円超の医療費」を超えます。
さらに、通院時の交通費や、同一生計の家族が支払った医療費も合算して申告できるため、還付金額を増やすことも可能です。
関連記事:インプラントの治療に使える「医療費控除」とは何ですか?
インプラントの医療費控除はいくら戻る?
医療費控除で実際に戻ってくる金額は、所得金額や支払った医療費の総額によって異なります。
控除額は次の計算式で算出されます。
(支払った医療費の総額 − 保険金などで補填された金額)−10万円(※所得が200万円未満の場合は所得の5%)= 医療費控除額(上限200万円)
この控除額を基に、所得税や住民税が再計算され、余分に納めた分が還付金として戻る仕組みです。
たとえば、インプラント治療費が50万円かかった場合、その他の医療費と合算して医療費控除の対象額が算出されます。
還付金の金額は所得によって異なり、一般的に所得が高いほど戻る金額も増える傾向にあります。
申告は確定申告期間中に、領収書や交通費の記録を保管しておきましょう。
保険がおりなかった場合の対処法
インプラント治療は基本的に自由診療で行われるため、保険が適用されず高額な費用負担が発生する場合が多く見られます。
ただし、費用を一度に全額支払うのが難しい場合でも、制度や支払い方法を活用することで負担を抑えられます。
ここでは、代表的な2つの方法として「高額療養費制度」と「デンタルローン」の活用について見ていきましょう。
高額療養費制度を活用する
高額療養費制度とは、1か月あたりに支払う保険診療の自己負担額が一定の限度額を超えた場合、その超過分が払い戻される制度です。
年齢や所得によって自己負担限度額は異なり、申請することで後日、指定口座に差額が振り込まれます。
ただし、制度を利用できるのはあくまで「保険適用の治療」に限られるため、自由診療の一般的なインプラント治療には適用されません。
事故や病気による顎骨欠損など、保険が認められるケースでインプラント治療を受ける場合のみ対象となります。
デンタルローンを利用する
インプラント治療のように高額な自由診療では、デンタルローンを活用するのもおすすめの方法です。
デンタルローンを利用することで、治療費を分割で支払いながら月々の負担を抑え、無理のないペースで治療を進められます。
一般的に金利はクレジットカードの分割払いよりも低く設定されており、長期的な返済計画を立てやすいのが特徴です。
また、歯科医院によっては提携している金融機関を通じたローン制度を用意している場合もあります。
契約前に金利や返済期間、手数料の有無などを確認し、自分の支払い計画に合ったプランを選びましょう。
インプラント治療を受ける前の注意点
インプラント治療は、見た目や噛み心地を自然に改善できる一方で、外科的手術を伴う高度な治療です。
そのため、準備やクリニック選びを誤ると、トラブルや後悔につながります。
保険が適用されない自由診療である以上、費用・安全性・医師の技術力などを慎重に見極めましょう。
ここでは、治療を受ける前に必ず確認しておきたい3つのポイントを紹介します。
注意点①事前に診断を受ける
インプラント治療を検討するときは、まず信頼できる歯科医院で正確な診断を受けることが大切です。
レントゲンやCTによる骨の状態、歯ぐきの厚み、噛み合わせなどを細かく確認し、治療の適性を見極める必要があります。
骨量が足りない場合や歯周病が進行している場合は、すぐにインプラント治療を進めるのではなく、前段階の治療が必要になるケースもあります。
事前診断を丁寧に受ければ、手術後のトラブルや失敗リスクを大幅に減らせるでしょう。
注意点②事前に情報を収集する
インプラント治療は医師の技術や使用する素材によって結果が大きく異なります。
そのため、治療を受ける前に費用の相場や使用しているインプラントメーカー、医師の経歴などしっかり調べておきましょう。
複数のクリニックでカウンセリングを受け、説明内容や対応を比較するのもおすすめです。
また、口コミや実際に治療を受けた患者の体験談を参考にするのも有効です。
情報収集を怠ると、価格だけで判断してしまい、結果的に満足のいく治療が受けられないケースもあるので注意してください。
注意点③治療費が安すぎるクリニックは選択肢から除外する
インプラント治療は、材料費・設備費・医師の技術料を含めると、どうしても高額になってしまいます。
そのため、極端に安い価格を提示しているクリニックに注意してください。
中には、国の承認を受けていないインプラントを使用している、経験の浅い医師が実績を積む目的で低価格に設定している場合もあります。
こうした「格安インプラント」は、術後のトラブルや感染リスク、さらに再手術が必要になるケースも少なくありません。
費用だけで判断するのではなく、安全性や信頼性を重視してクリニックを選ぶことが、失敗を防ぐ重要なポイントといえます。
インプラント治療の保険適用と費用を正しく理解して選択を
インプラント治療は、見た目や噛む力を改善できる優れた治療法ですが、基本的には保険が適用されない自由診療です。
ただし、先天的な疾患や事故など、特別な事情がある場合には保険が適用されることもあります。
治療を検討する際は、保険の可否や費用の目安、医療費控除などの制度を理解したうえで、自分に合った治療方法を選びましょう。
信頼できる歯科医院で十分な説明を受け、納得したうえで治療を進めることが大切です。
この記事の監修者
日本歯科大学新潟生命歯学部を卒業後、インプラント治療に従事。現在では「インプラント治療のきぬた歯科」を開業し年間3000本以上のインプラント治療の実績がある。
日本でインプラント治療が黎明期だったころからパイオニアとして活躍し、インプラントメーカーのストローマン社やノーベルバイオケア社から公認インストラクターの資格を得た。
本の執筆やTV・雑誌などのメディア出演、自身のYouTubeチャンネルなどで情報発信を積極的に行っている。
<主な著書>
インプラント治療は史上最強のストローマンにしなさい!!
歯医者が受けたい!インプラント治療
あっそのインプラント、危険です!!
<YouTubeチャンネル>
八王子きぬた歯科
<外部サイト>
きぬた 泰和 Wikipedia