インプラント治療後に歯磨きが大切な理由

インプラントは、人工の歯なので虫歯になることはありません。
しかし、治療が完了してインプラントが安定したら、ほかの歯と同様にしっかりと歯磨きをする必要があります。

なぜなら、インプラントを埋め込んだ場所はインプラント周囲粘膜炎、およびインプラント周囲炎といった歯周病によく似た症状が起こりやすくなるためです。
いずれの症状も、インプラントの周囲にたまった歯垢や歯石のなかで細菌が繁殖することで引き起こされます。

インプラント周囲粘膜炎では、インプラントの周囲の歯茎が赤く腫れ、歯磨きをしたときに出血するといった症状がみられます。
そして、インプラント周囲粘膜炎をそのまま放置していると、インプラント周囲炎に発展するのです。
インプラント周囲炎はより症状が重く、炎症が骨まで進行することによって、埋め込んだインプラントがグラグラと揺れ、最悪の場合は抜け落ちてしまうということがあります。

日本歯周病学会が発表した資料によると、インプラント治療を行った患者のうち、33.3%がインプラント周囲粘膜炎を、4.7%がインプラント周囲炎をそれぞれ発症しています。
これは決して少ない数値ではないため、治療後はしっかりと歯磨きを行って、症状を防ぐことが大切です。

参照:歯周病患者における口腔インプラント治療指針およびエビデンス2018 – 日本歯周病学会

インプラント治療後の歯磨き粉

インプラントの治療後に気を付けたいのが歯磨き粉の種類です。インプラントを長持ちさせるためには、インプラントと相性の良い歯磨き粉を選ぶことが大切です。

普段何気なく使っている歯磨き粉にも、種類が豊富にあるため、正しい知識がないと不適切な使い方をする可能性があります。

インプラント治療後に向いていない歯磨き粉を使うと、歯茎に炎症が起きたり、インプラントを傷めてしまったりすることがあるため注意が必要です。

インプラントの治療後に使うべき歯磨き粉について知っておきましょう。

研磨剤は使ってもいいのか

大きな粒子の研磨剤が入っている歯磨き粉は、インプラントの治療後には避けるのがおすすめです。理由は研磨剤の粒子がインプラントと歯茎の間に入り込み、炎症を引き起こす可能性があるからです。

また、研磨剤は歯の表面をキレイにしているように見えて、歯を削ってしまいその隙間に汚れが付きやすくなる可能性があります。

さらに歯周病の人が使うと、露出している歯が傷つきやすくなるというデメリットがあります。

粒子の大きさの目安は舌の上でザラザラする感じがあるかどうかです。インプラントだけでなく残っている歯のためにも、大きな粒子の研磨剤は避けるようにしましょう。

フッ素入りは大丈夫?

「フッ素入りの歯磨き粉は使っていいのか?」という質問をよくいただきます。フッ素はインプラントに使われているチタンを腐食させる作用があるため、このような質問が多いのでしょう。

結論から申し上げると、日本で市販されているフッ素入りの歯磨き粉はインプラント治療後に使っても問題ありません。

インプラントが腐食するフッ素の量は1,500ppm以上です。日本で売られている歯磨き粉に含まれるフッ素の濃度は1,000ppm〜1,500ppm程度です。インプラントを腐食させる程多くのフッ素が含まれていないため、インプラント治療後でも安心して使用できます。

さらにフッ素入りの歯磨き粉は、歯質の強化や初期の虫歯の回避などの効果が期待できるとされています。

インプラント治療後に使う歯磨き粉は、歯の虫歯予防につながるフッ素入りの歯磨き粉がおすすめです。フッ素の配合量が気になる場合は、パッケージの裏面を確認したり、医師に一度相談したりするといいでしょう。

顆粒入りの歯磨き粉は?

インプラントの治療後の歯磨き粉に、顆粒入りの歯磨き粉はあまりおすすめできません。顆粒入りの歯磨き粉には、研磨剤も含まれている場合が大半です。とくに大きい顆粒が入っている歯磨き粉には注意が必要です。

顆粒は歯周ポケット(歯と歯茎の間の溝)に入ると、そのまま取れなくなって隙間を作ります。隙間に汚れが入り込むと、取れなくなって歯石(歯垢が固くなったもの)に変わってしまうのです。さらに顆粒が歯周ポケットにとどまったままだと、炎症が起きる原因になります。大きい顆粒は歯の表面を削って、汚れが付きやすくなるデメリットもあります。

粒子が大きい研磨剤は「炭酸カルシウム」や「ケイ素」と記載されているので、成分表を確認して、避けるようにしましょう。また、歯科医師にすすめられた歯磨き粉を使うのもおすすめです。

医薬部外品と化粧品はどっちがいい?

歯磨き粉には医薬部外品のものと、化粧品のものがあります。どちらを選べばいいのかは「自分の口の状態や好みに合わせる」というのが答えです。

医薬部外品に分類される歯磨き粉は、フッ素などの有効成分が配合されているのが特徴です。フッ素が配合されていると、虫歯予防の効果が期待できます。タバコのヤニを除去する成分が含まれている場合もあります。

一方、化商品に分類される歯磨き粉は、歯の表面をキレイにする研磨剤や発泡剤、爽快感を与える香料などが入ってるものです。

パッケージの裏面を見ると、どちらに分類されているのかすぐにチェックできます。自分の口の状態や好みで選んでみてください。どうしても判断が難しい場合は、歯科医師に相談してみるといいでしょう。

インプラント治療の段階ごとに歯磨きで注意したいこと

インプラント治療は一度の手術だけですべてが完了するわけではなく、最低でも2か月、長くて半年ほどの期間をかけて行われます。
治療の段階によってお口の中の状態が異なるため、各段階で歯磨きにおいて気をつけることも少しずつ異なります。

以下に、インプラント治療の段階別に歯磨きのポイントをまとめました。

インプラントを埋めて間もないころ

通常、2回法と呼ばれる治療では、最初の手術でインプラント体をあごの骨に埋め込み、そのまま歯肉を縫合して一旦閉じます。
そのため、初回の手術が終わったばかりの段階では、まだ歯がない状態で、インプラント体を埋め込んだ場所も傷口になっています。

傷口に刺激を与えると炎症が悪化する可能性があるため、インプラントを埋め込んだ場所にはできるだけ触れず、また、うがいもやさしく行いましょう。
治療を行った箇所以外の歯は通常通り磨いて問題ありませんが、傷口に刺激を与えないように、柔らかい歯ブラシを使ってやさしく磨いてあげてください。

また、傷口から細菌が入り込むことでも炎症が起きてしまう可能性があるため、細菌が繁殖する原因となる歯垢は、デンタルフロスを用いて、可能な限り取り除きましょう。

上部構造(人工歯)の装着後

初回の手術で埋め込んだインプラントが安定したら、2回目の手術を行います。
2回目の手術では、縫合した歯肉を再度切開し、なかにあるインプラントに人工歯を取り付けて、歯が使える状態にします。

この手術を行ったあとは、取り付けた人工歯も通常の歯と同じく磨くようにしましょう。

ただし、手術直後は歯肉の切開した箇所はまだ傷の状態で、やはり炎症が起きやすくなっています。
そのため、しばらくは毛の柔らかい歯ブラシを使って歯を磨き、傷が治ってきたら少しずつ毛の硬い歯ブラシに変えていきましょう。
傷の治るスピードは患者様によって異なるため、歯ブラシを変えるタイミングは、歯科医にご相談されることをおすすめします。

治療が完了したあと

治療が完了し、通常の歯と同じようにインプラントを使えるようになってからは、通常の歯磨きを行えば問題ありません。
ただし、通常の歯の歯周病に加え、インプラント周囲粘膜炎やインプラント周囲炎が起こるリスクがあるため、より丁寧にしっかりと歯磨きをする必要はあります。
これまでは歯磨き粉と歯ブラシのみを使って歯を磨いていたという方も、今後はデンタルフロスや歯間ブラシを使うことを視野に入れましょう。

また、どれだけご自身で歯磨きを丁寧に行っていても、残念ながらインプラント周囲粘膜炎やインプラント周囲炎を完全に防げるわけではありません。
そのため、治療後も定期的に歯科医院に通院し、インプラントのメンテナンスを受けましょう。
メンテナンスでは、治療箇所の状態の確認だけでなく、専門の器具を用いた歯のお掃除も行うため、歯磨きではケアが行き届かなかった部分までキレイにできます。

インプラント治療後のトラブルを防ぐために歯磨きはしっかりと行おう

今回は、インプラント治療後の歯磨きのポイントを紹介しました。

手術を行った直後は、歯肉の傷口がまだふさがっておらず、ちょっとした刺激や細菌が原因で炎症を起こしやすい状態になっています。
そのため、歯磨きの際は治療箇所に触れないのはもちろんのこと、毛の柔らかい歯ブラシを使って、傷口にできるだけ刺激を与えないようにしましょう。

また、治療が終わってからは、インプラント周囲粘膜炎やインプラント周囲炎といった症状を防ぐために、しっかりと歯を磨く必要があります。
トラブルの予防には、セルフケアでの歯磨きと、歯科医院のメンテナンスを併用することが大切ですので、メンテナンスには必ず通いましょう。

きぬた歯科では、当院でインプラント治療を受けられた方のメンテナンスを無料で行っております。
インプラント治療をご検討されている方はぜひ一度、無料カウンセリングへお越しください。

インプラントの費用について気になる方はぜひ、「インプラントの費用の基礎知識と1本あたりの費用について」をご覧ください。

この記事の監修者

日本歯科大学新潟生命歯学部を卒業後、インプラント治療に従事。現在では年間3000本以上のインプラント治療の実績がある。

日本でインプラント治療が黎明期だったころからパイオニアとして活躍し、インプラントメーカーのストローマン社やノーベルバイオケア社から公認インストラクターの資格を得た。

本の執筆やTV・雑誌などのメディア出演、自身のYouTubeチャンネルなどで情報発信を積極的に行っている。

<主な著書>
インプラント治療は史上最強のストローマンにしなさい!!
歯医者が受けたい!インプラント治療
あっそのインプラント、危険です!!

<YouTubeチャンネル>
八王子きぬた歯科

<外部サイト>
きぬた 泰和 Wikipedia