「一番奥の歯だから、抜けてしまっても特に困らないかな」 「奥歯の7番を抜歯したけど、治療費もかかるし、このままにしておいても大丈夫だろうか」
虫歯や歯周病で奥歯を失ってしまった方の中には、このように考える方も少なくないかもしれません。特に、前から数えて7番目の歯は最も奥に位置するため、見た目にも影響が少なく、食事の際にもすぐには不便を感じにくいため、治療を先延ばしにしてしまいがちです。

しかし、その「1本くらい大丈夫」という油断が、将来的にあなたの口内環境全体、ひいては全身の健康にまで深刻な影響を及ぼす可能性があることをご存知でしょうか。

奥歯の7番は、私たちが食事を美味しく食べ、健康な体を維持するために、実は非常に重要な役割を担っています。その歯を失ったまま放置することは、歯並びの乱れや顔のゆがみ、さらには他の健康な歯の寿命を縮めることにも繋がりかねません。

この記事では、奥歯の7番が持つ重要な役割から、抜歯後に放置する具体的なリスク、そしてインプラントをはじめとする治療法の選択肢について、専門的な観点から詳しく解説していきます。

奥歯の7番とは

私たちが普段「奥歯」と呼んでいる歯は、専門的には「臼歯(きゅうし)」と呼ばれます。その中でも、前から数えて7番目に位置する歯が「第二大臼歯」であり、一般的に「7番」や「12歳臼歯」とも呼ばれています。

この7番の歯は、永久歯の中でも特に重要な役割を持つ歯です。

【7番の歯の役割】

  • 強力な咀嚼機能: 大人の歯の中で最も強い力で食べ物をすり潰す役割を担っており、食事の際の咀嚼(そしゃく)能力の根幹を支えています。
  • 噛み合わせの基準: 上下の歯が正しく噛み合うための「鍵」となる歯であり、顎の位置や顔の輪郭を決定づける重要な要素です。

しかし、その重要性とは裏腹に、7番は最も奥に位置するため歯ブラシが届きにくく、磨き残しが多くなりがちです。そのため、虫歯や歯周病になるリスクが非常に高く、残念ながら永久歯の中で最も失いやすい歯の一つとしても知られています。厚生労働省の調査でも、年齢が上がるにつれて第二大臼歯の喪失率が高くなることが示されており、多くの人が7番の歯の問題に直面しているのが現状です。

奥歯の7番の抜歯後に放置しておくリスク

「一番奥の歯が1本ないくらい、大丈夫だろう」と考えるのは非常に危険です。歯はすべての歯が互いに支え合い、バランスを保って機能しています。たった1本でも歯が抜けると、そのバランスが崩れ始め、ドミノ倒しのように次々と問題を引き起こす可能性があります。

顎の骨が痩せていく

歯が抜けてしまうと、歯を支えていた顎の骨(歯槽骨)は役割を失い、刺激がなくなることで徐々に痩せていってしまいます。これを「骨吸収」と呼びます。骨が痩せると、将来的にインプラントや入れ歯などの治療を行おうとした際に、十分な骨量がなく治療が困難になる、あるいは大掛かりな骨の再生治療が必要になる場合があります。

噛む力が弱まる

奥歯の7番は、食べ物をすり潰す上で中心的な役割を果たします。この歯を失うと、全体の噛む力が大幅に低下し、硬いものや繊維質の多いものが食べにくくなります。食事を楽しめなくなるだけでなく、消化不良の原因にもなり得ます。

歯並びが悪くなる

歯が抜けてできたスペースに向かって、隣の歯(6番)が倒れ込んできたり、噛み合う相手の歯(対合歯)がスペースに伸びてきたりします。これを「歯の傾斜」や「挺出(ていしゅつ)」と呼びます。これにより、全体の歯並びや噛み合わせが徐々に乱れていき、見た目の問題だけでなく、清掃がしにくくなることで虫歯や歯周病のリスクも高まります。

顔がゆがむ

噛み合わせのバランスが崩れると、無意識のうちに歯が残っている側ばかりで食べ物を噛むようになります。片側だけで噛む癖が続くと、顎の筋肉のバランスが崩れ、顔の輪郭が左右非対称になる、いわゆる「顔のゆがみ」を引き起こすことがあります。また、口元のハリが失われ、ほうれい線が深くなるなど、見た目の老化に繋がることもあります。

残っている歯に負担がかかる

本来、28本の歯(親知らずを除く)で分散されるべき噛む力が、歯が1本減ることで残りの歯に過剰にかかるようになります。特に、隣の6番の歯(第一大臼歯)には大きな負担が集中し、歯が割れたり、揺らいだり、歯周病が進行したりと、健康な歯の寿命を縮めてしまう原因になります。

顎関節症を引き起こす

噛み合わせのズレは、顎の関節(顎関節)にも直接的な影響を及ぼします。顎の正しい位置がずれることで、「口を開けるとカクカク音がする」「口が開きにくい」「顎が痛む」といった顎関節症の症状を引き起こすリスクが高まります。

健康リスクを招く

しっかりと噛めなくなることは、口の中だけの問題に留まりません。咀嚼能力の低下は、栄養バランスの偏りや消化器系への負担増に繋がります。また、近年の研究では、残っている歯の本数が少ないほど認知症や心疾患、糖尿病などの全身疾患のリスクが高まることが指摘されています。歯を失うことは、健康寿命を縮める一因にもなり得るのです。

奥歯の7番の抜歯後に考えられる治療法

奥歯の7番を失った場合、その機能を回復するための治療法にはいくつかの選択肢があります。それぞれにメリット・デメリットがあるため、歯科医師とよく相談し、ご自身の状況に合った最適な方法を選ぶことが重要です。

インプラント

インプラント治療は、歯を失った部分の顎の骨にチタン製の人工歯根(インプラント)を埋め込み、その上に人工の歯を装着する方法です。

【メリット・デメリット】

  • メリット: 自分の歯のようにしっかりと噛め、見た目も自然。周囲の健康な歯を削る必要がない。顎の骨が痩せるのを防ぐ効果がある。
  • デメリット: 外科手術が必要。保険適用外のため費用が高額。治療期間が比較的長い。

関連記事:インプラントにはどんな種類があるのでしょうか?

入れ歯

入れ歯(部分床義歯)は、失った歯を補う人工の歯と、それを支えるための床(しょう)からなり、残っている歯に金属のバネ(クラスプ)をかけて固定します。

【メリット・デメリット】

  • メリット: 外科手術が不要。比較的費用が安く、治療期間も短い。保険適用のものがある。
  • デメリット: 噛む力がインプラントの20~30%程度と弱い。バネをかける歯に負担がかかる。違和感や異物感が出やすい。毎日のお手入れが必要。

ブリッジ

ブリッジは、失った歯の両隣の健康な歯を土台として削り、そこに橋(ブリッジ)をかけるように一体型の被せ物をして歯を補う方法です。

【メリット・デメリット】

  • メリット: 固定式のため、入れ歯のような違和感が少ない。比較的治療期間が短い。
  • デメリット: 健康な両隣の歯を大きく削る必要がある。土台となる歯に大きな負担がかかる。7番の奥に支えとなる歯(8番の親知らず)がない場合、原則として適用できない。

関連記事:インプラントとブリッジのどちらを選ぶべき?それぞれの特徴について

矯正(歯の移植)

親知らず(8番)が健康な状態で残っている場合、それを7番の抜歯した部分に移植する「自家歯牙移植」や、歯列矯正によって8番の歯を7番の位置まで移動させるという選択肢もあります。

【メリット・デメリット】

  • メリット: 自分の歯を利用するため、生体親和性が高い。
  • デメリット: 適用できる条件が非常に厳しい(親知らずの形や大きさ、骨の状態など)。成功率が100%ではない。矯正の場合は治療期間が非常に長くなる。

奥歯の7番の抜歯後に治療が必要なケース

基本的には、奥歯の7番を抜歯した後は、放置せずに何らかの治療を行うことが強く推奨されます。特に、以下のようなケースでは治療の必要性がより高まります。

上下どちらか一方で奥歯の7番を抜歯している

例えば、下の7番だけを抜歯して放置した場合、噛み合う相手である上の7番が、空いたスペースに向かってどんどん伸びてきてしまいます(挺出)。これにより噛み合わせが大きく乱れ、顎関節症や他の歯へのダメージを引き起こす原因となるため、早急な治療が必要です。

奥歯の7番以外の歯も失っている

すでに他の歯も失っている場合、残っている歯にかかる負担はさらに大きくなります。7番の歯を補うことで、全体の噛む力を分散させ、残存歯を守ることの重要性が増します。

歯周病が進行している

歯周病で7番の歯を失った場合、口内全体の歯周病菌が多い状態です。抜歯した部分を放置すると、隣の歯との間に隙間ができ、そこに歯垢が溜まりやすくなることで、歯周病がさらに悪化する可能性があります。適切な治療とメンテナンスで、口内環境を清潔に保つことが求められます。

奥歯の7番の抜歯後に治療が不要なケース

非常に稀ですが、歯科医師の判断により、あえて積極的な治療を行わない方が良いと判断されるケースも存在します。ただし、これは自己判断ではなく、必ず専門家である歯科医師の診断に基づくものです。

上下両方で奥歯の7番を抜歯している

上の7番と下の7番を両方とも抜歯しており、かつ親知らず(8番)もない場合、噛み合う相手の歯が存在しません。この状況で、隣の6番までの噛み合わせが安定していると歯科医師が判断した場合には、経過観察となることがあります。ただし、隣の歯が倒れ込んでくるリスクなどは依然として残ります。

口を大きく開けられない

7番の治療、特にインプラント手術では、ある程度口を大きく、そして長時間開けておく必要があります。顎関節症の症状が重いなど、開口が困難な場合は、治療自体が患者さんの大きな負担となるため、治療を見送ることがあります。

顎の骨の健康状態が悪い

重度の歯周病によって顎の骨が広範囲にわたって吸収されている場合や、骨粗しょう症の治療薬(ビスフォスフォネート製剤など)を長期間使用している場合、インプラント手術後の骨との結合がうまくいかなかったり、顎の骨が壊死したりするリスクが高まります。このようなケースでは、インプラント治療は推奨されません。

奥歯の7番のインプラントのメリット

奥歯の7番の治療において、条件さえ満たせばインプラントは非常に優れた選択肢となります。ブリッジが適用できないケースが多い7番において、入れ歯と比較した場合のインプラントのメリットは計り知れません。

メリット①食事の際にしっかりと噛むことができる

最大のメリットは、その優れた咀嚼能力です。インプラントは顎の骨に直接固定されるため、天然の歯とほぼ同じくらいの力で、しっかりと噛むことができます。入れ歯では食べにくかった硬いおせんべいやステーキ、繊維質の野菜なども、気にすることなく楽しめます。食事を美味しく味わえることは、生活の質(QOL)を大きく向上させます。

メリット②顎の骨の吸収を防げる

インプラントは、噛むことによる刺激を、天然の歯と同じように顎の骨に直接伝えます。この適度な刺激が、顎の骨が痩せていく「骨吸収」を防ぐ効果があります。骨の健康を維持することは、口元の若々しさを保ち、他の歯の健康を守ることにも繋がります。

メリット③周囲の歯に負担がかからない

インプラントは、失った歯の部分だけで独立して機能します。そのため、ブリッジのように健康な隣の歯を削ったり、入れ歯のようにバネをかけて負担をかけたりする必要が一切ありません。周囲の歯の健康を守り、寿命を延ばすことができる、非常に保存的な治療法といえます。

メリット④正しい噛み合わせを保てる

インプラントによって失われた7番の機能が回復することで、噛み合わせのバランスが整います。隣の歯が倒れ込んだり、対合歯が伸びてきたりするのを防ぎ、全体の歯並びと噛み合わせを長期的に安定させることができます。これにより、顎関節症のリスクも軽減されます。

メリット⑤全身の健康を保てる

しっかりと噛めることは、全身の健康に直結します。多様な食材からバランス良く栄養を摂取できるようになり、消化を助け、生活習慣病の予防にも繋がります。また、咀嚼運動は脳への血流を促進し、認知機能の維持にも良い影響を与えることが知られています。「自分の歯で噛む」という行為をインプラントで取り戻すことは、健康寿命を延ばすための重要な投資ともいえるでしょう。

奥歯の7番のインプラント治療のデメリット

多くのメリットがあるインプラント治療ですが、決断する前に知っておくべきデメリットや注意点も存在します。

デメリット①骨の状態によって骨造成手術が必要になる

インプラントを埋め込むためには、十分な厚みと高さのある顎の骨が必要です。しかし、抜歯後長期間が経過していたり、歯周病が重度だったりすると、骨が痩せてしまっている場合があります。その場合、インプラント手術の前に、骨を増やすための「骨造成手術(GBR法やサイナスリフトなど)」が必要になることがあります。これにより、別途費用と治療期間がかかります。

デメリット②保険適用外のため費用が高額になる

インプラント治療は、一部の特殊な症例を除き、公的医療保険が適用されない「自由診療」です。そのため、治療費は全額自己負担となり、入れ歯や保険適用のブリッジと比較して高額になります。費用は歯科医院や使用するインプラントの種類、骨造成の有無などによって異なりますが、1本あたり数十万円が相場となります。

デメリット③治療期間が長くなる場合がある

インプラント治療は、人工歯根を埋め込む手術から、骨と結合するのを待つ期間、そして最終的な人工歯を装着するまで、一連の流れに数ヶ月の期間を要します。一般的には、3ヶ月から半年程度が目安となります。さらに骨造成手術が必要な場合は、トータルで1年近くかかることもあります。すぐに歯を入れたいという方には向かない場合があります。

奥歯の7番はQOLを左右する貴重な歯

今回は、奥歯の7番(第二大臼歯)を失った場合のリスクと、インプラント治療がもたらすメリットについて詳しく解説しました。

一番奥の歯だからといって、その役割は決して小さくありません。たった1本の歯が、あなたの口内全体のバランス、そして全身の健康を支えているのです。もしあなたが奥歯の7番を失ってしまい、治療法に悩んでいるのであれば、まずは放置するリスクの大きさを正しく理解することが第一歩です。

その上で、インプラントがもたらす長期的なメリットと、ご自身のライフプランや価値観を照らし合わせて、最適な選択をすることが大切です。費用や期間に関する不安もあるかと思いますが、まずは信頼できる歯科医師に相談し、あなたの口の中の状態を正確に診断してもらうことから始めてみてはいかがでしょうか。あなたの健康な未来を守るための、最善の道がきっと見つかるはずです。

インプラント治療のきぬた歯科では年間3,000本のインプラント埋入を行っており、患者様の状態に合わせた的確な治療をご提案いたします。
インプラントができないと言われた方も、ぜひきぬた歯科にご相談ください。

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この記事の監修者

日本歯科大学新潟生命歯学部を卒業後、インプラント治療に従事。現在では「インプラント治療のきぬた歯科」を開業し年間3000本以上のインプラント治療の実績がある。

日本でインプラント治療が黎明期だったころからパイオニアとして活躍し、インプラントメーカーのストローマン社やノーベルバイオケア社から公認インストラクターの資格を得た。

本の執筆やTV・雑誌などのメディア出演、自身のYouTubeチャンネルなどで情報発信を積極的に行っている。

<主な著書>
インプラント治療は史上最強のストローマンにしなさい!!
歯医者が受けたい!インプラント治療
あっそのインプラント、危険です!!

<YouTubeチャンネル>
八王子きぬた歯科

<外部サイト>
きぬた 泰和 Wikipedia